全日本医学生自治会連合(医学連)は、2022年3月4日に文部科学省交渉を行いました。医学連では毎年、全国の医学生から集めた意見をもとに文部科学省と意見交換をしていますが、今年は新型コロナウイルス感染拡大を受けて、オンラインでの実施となりました。今年は以下の7項目について要請をしました。要請文はこちら。
1. 新型コロナウイルスの流行状況に関する要請
2.学生生活や授業に関わることを大学と学生が双方向に議論できる場の確保について
3.医学教育について
4.基礎研究の推進について
5.医学部生の燃え尽き症候群について
6.医学生の精神的サポートについて
7.予算について
ここから、各項目の内容と回答について簡潔にまとめ、報告します。
【1. 新型コロナウイルスの流行状況に関する要請】
以下の項目を要請しました。
①現在、新型コロナウイルスに対する感染防止対策が診療科や担当医ごとに異なり、臨床実習の機会が著しく実習が損なわれている状況を見直し、必要な代替措置を設けるなどして学生の学びを保障すること。
→これに対し文科省は、令和3年の5月付ですでに対応しており、各大学に実情を踏まえた実習の保障をするようにお願いし、感染対策に関する設備支援などもしているとの回答でした。
②対面講義に代わる講義方式を学生にとってより学修しやすいものとするため、アンケートなどを実施し学生の声を反映させるよう各大学に強く推奨すること。また、対面講義に代わる講義の出席要件について講座・診療科間で差が生じないよう、各大学に呼びかけること。
→文科省の回答としては、対応の合理性等を学生に説明し、不安や疑問を抱いている学生に対応するように伝達をしているというものでした
【2.学生生活や授業に関わることを大学と学生が双方向に議論できる場の確保について】
以下の項目を要請しました。
①大学の方針が学生の意見をより反映される形で決定されること。
②新型コロナウイルス蔓延下において医学生のストレスを軽減できるようなサポートを行うこと。
③医学生同士がコミュニケーションを行うことができる環境を作ること。
④学習環境について、自宅以外で学習できる環境を確保すること。また、十分な間隔をとって学習できるよう、利用可能な学習場所を増やすこと。
⑤医学生がより帰省しやすくなるように学習形態の工夫をすること。
⑥学生の経済的支援について、より充実した支援や受給の適応範囲の拡大を行うこと。また、経済的支援の存在について医学生に周知すること。
→これらの項目に対して文科省は、各大学にすでに通達できていると考えている、との回答でした。⑤の帰省に関する項目については、マッチングや臨床実習、大学のルールがかみ合わなくて困っているが、現状に問題があるとは認識していないと述べています。
【3.医学教育について】
以下の項目を要請しました。
①国際認証に伴う医学教育改革において、医学生が主体的に関われる仕組みと、医学生の声がきちんと 反映される仕組み作りをすること。また、形だけで機能していないカリキュラム委員会に関して運営を改善し、積極的な学生参加を促すこと。
→①の項目に対し文科省は、各大学に学生が参画した上でのカリキュラムに関するPDCAサイクルが回せているか確認していきたいと回答しています。
②カリキュラムの過密化に対する教員と学生双方の負担を実地把握し、より良いカリキュラムを全医学部に提示すること。カリキュラムの大学間格差をなくすこと。
→これに対して、現状カリキュラムは、統一の医学教育モデルコアカリキュラムで3分の2、各大学で残りの3分の1を決めるということになっており、均一的なカリキュラムは難しい、との回答でした。
③診療英会話能力や英語プレゼン、英語文献の抄読力等の向上を目指し、医学部において臨床・研究共にグローバルスタンダードに即した教育体制の確立を進めること。
→③に関しては、言語や国際的な患者さんの理解など含め、国際医療に貢献という内容をモデルコアカリキュラムに盛り込んでおり、さらに検討を進めるという回答が得られました。
④医学生の留学に関わる国からの金銭面・制度面での援助を拡張させていくこと。各大学において、留学を希望する学生に対して留学に対する支援を充実させること。
→この項目については、コロナ禍での隔離措置が原則7日間の待機から3日間に緩和されたところで自宅での待機も可能なので、経済的にも負担が減ったという考えを示しました。
⑤各大学の留年者数を調査し、その実態を明らかにすること。適正な進級判定が行われているか精査すること。
→留年の問題については、大学の6年間で卒業した卒業者数は毎年調べて公表している、との回答でした。
⑥全ての大学医学部で公正に試験結果の評価をすること。
→これに対しては、進級判定は不公平にならないように公表されているはずであると回答しています。
⑦拡大しつつある医学生の医行為に見合うだけの指導医体制を整備すること。
→指導医体制の整備については、大学設置基準で定められた教員数よりも多く設置されているので十分だと認識しているが、診療参加型の臨床実習については教員数が必要なので、各大学に増員をお願いしている、と回答しました。
⑧働き方改革に必要な、労働者の権利や法律に関する知識を医学教育に盛り込むこと。新専門医制度の運用について、医学生および専攻医がアクセスしやすい形での正しい情報の提供を行っていくこと。
⑨卒後教育も担当する厚生労働省とより緊密な連携をとり、医学教育の充実に取り組むこと。
→厚労省との連携に関しては、臨床研修の理念やキャリア性プログラムについてともに議論をしており、よりシームレスな連携を目指して、今後も動いていく、という考えを述べました。
【4.基礎研究の推進について】
以下の項目を要請しました。
①科学研究費助成事業を継続的に増額させていくこと。
②基礎研究医を養成するためのプログラムを推進すること。また、留学や大学院進学などにかかる費用への支援を充実させること
③基礎研究医として雇用された後も、研究医としての安定的な身分を保障すること。また、ライフイベントに伴う休職・離職に柔軟に対応し、復職時のポストを保障するなど、研究医の待遇改善に努めること。
→これらの項目に関しては、助成費は前年度と同じくらいの金額を計上しており、待遇についても、若手職員の起用などを行っていると回答しています
【5.医学部生の燃え尽き症候群について】
以下の項目を要請しました。
①入学後も医学生のモチベーションにつながる学びの機会を提供すること。
②患者から感謝される体験、患者から必要とされている事を実感する体験などを早期から積むことがで きる機会を提供すること。
③燃え尽き症候群を発症してしまった学生へのケアを促進させること。
→①②については、モデルコアカリキュラムをより工夫し、医行為についてもより多くの機会が得られるようにと各大学に伝えていると回答しました。
【6.医学生の精神的サポートについて】
以下の項目を要請しました。
①個人情報の守秘義務を遵守したカウンセリング体制を実現すること。
→これに対しては、メンタルヘルスケアは大切であり、各大学には学生の要求を反映したサポートを何度も要求している、相談窓口は多くの大学に設置してあるが、調査で実際には利用されていないことがわかったので、現状の分析と改善を行っているところであり、学生に周知するように求めたいという回答が得られました。
②大学においてストレスコーピングに関する講義を充実させること。
→文科省からは、ストレスコーピングについての事例があまりないが、学生の悩みに対応できるように求めていきたいという回答が得られました。
【7.予算について】
以下の項目を要請しました。
①質の高い医学教育や無給医の根絶のために、国立大学運営費交付金を拡充させること。
→これに対しては、平成27年度以降は増額しており、令和4年度は前年度と同じ14億円前後を増額した、今後も継続的に対応していきたい、との回答が得られました。
②学習施設や食堂、教員数など学習や生活環境向上のために必要な経費を確保すること。
→この項目に対しては、国立大学については5か年計画がある中で、大学の要望を取り入れて対応している、私立大学については、補助金で質の向上に取り組むなどの対応を行なっていると回答しました。
③6年間の授業料や共用試験の受験料など、医学生の大きな経済的負担を軽減するように十分な予算と給付型奨学金を確保すること。
→これに対し文科省からは、令和2年度から真に補助が必要な低所得世帯に対して、授業料減免と奨学金給付を行なっている。過年度生については進学者の多くをカバーできる高卒2年以内(20歳以下)としているが、調整の上制限の緩和に努める。予算は希望者全員を対象とできるように予算を確保するため努力をしている、という回答が得られました。
文科省交渉の様子