2020年12月23日に、全日本医学生自治会連合(医学連)は厚生労働省との懇談を行いました。新型コロナウイルスの影響により、オンラインでの実施となりました。医学連では毎年、全国の医学生から集めた意見をもとに厚労省との懇談を行い、意見交換を行っています。昨年度の厚労省交渉は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となり、医学連から要請を行うことができませんでした。今年度は、昨年度取り上げる予定であった「地域枠」に関する項目と、新型コロナウイルスの影響により緊急に伝えておきたい項目を取り上げました。
新型コロナウイルスの影響については、「医師国家試験」「病院実習における感染対策」「病院の経営難に対する支援」「PCR検査体制」の4項目について要請しました。
地域枠については、「法的拘束力」「従事義務と学生への支援策」「医師の絶対数不足」「キャリア支援の柔軟な対応」「従事義務要件の変更」「学生や中高生に対する説明」「マッチングに関わる運用」「学生の声を取り入れること」「すべての大学で適切な支援を行うこと」の9項目について、昨年度の医学連アンケートで集めた声と報告書をもとに質問と要請を行いました。
また、年度内に2回の交渉を行うことも見据えて例年の時期よりも前倒しで、内容を絞って行いました。
厚生労働省要請文はこちら:【完成版】37mz 厚労省 要請要旨
厚労省交渉の様子↓
一、新型コロナウイルスの影響について
【医師国家試験】
2月に行われる医師国家試験について、医学連からは、感染防止の観点から複数会場で行うなどの対策と、変更となる場合の案を複数提示するよう求めました。また、現状では感染者や濃厚接触者の一部が受験できないような方法を示していることから、全ての学生の受験資格が保障されるように措置の再検討を求めました。
これについて、厚労省からは、国試は不要不急の物事ではないため、仮に緊急事態宣言が出たとしても発表している実施方法に基づいて行うということになっており、例年より会場数を増やしたり学生の間隔をあけるなどの準備をしているということでした。また、感染者は受験できないことになっているが、会場で検温や迅速検査を行ったうえで、医療提供体制の確保の観点から、最大限多くの学生が受験できるように配慮しているという認識を示しました。一方で、追試を行うということに関しては大学の先生方に問題を作ってもらうことになるため、病院の最前線で働いている先生に負担をかけることになり、実現が難しく、試験前に体調管理を気を付けてほしいと回答しました。
そのうえで、来年度以降は追試を検討することなども含めて対策を検討していってほしいと医学連から要請しました。
【病院実習における感染対策】
医学部で行われている臨床実習について、学生の活動や県外移動に関して各病院ごとに定められている対策指針に学生の声を反映するように求めました。また、臨床実習の中で、問診ができないなどの学業上の不利益が過剰に生じている現状を是正し、文科省と連携して医学部附属病院などへの感染対策の指針を出してもらうよう要請しました。
これに対して、厚労省からは、新型コロナウイルスについて明らかになってきているところはHPで情報提供を行い、適切な対応方法を周知していると述べ、附属病院がそれぞれで作成している対策指針に今後影響していくとの認識を示しました。そして、こうした対策を行いつつ、大学病院として学生の学修環境を確保するように努めてほしいとの回答がありました。
【病院の経営難に対する支援】
新型コロナウイルスの影響による受診控えなどで経営難に直面している病院が多数あることについて、医学連から病院の維持や医療従事者の待遇改善という観点から、政府による財政支援を求めました。
これについて、厚労省としてもコロナ禍での医療機関の経営は厳しいという認識を示し、第一次、第二次補正予算の予備費で約3兆円の予算措置を行い、サポートしていくという説明がありました。また、12月8日に閣議決定した第三次補正予算において緊急包括支援交付金を増加することや、感染防止・診療体制確保のための費用をさらに支援していくことを考えているというご回答をいただきました。
【PCR検査体制】
医学連からは、新型コロナウイルスの感染を確認するためのPCR検査について、病院実習を行っている学生などについては、学修環境を保障し、患者さんへの感染リスクを減少するという観点から、金銭的負担にならない形で拡充していくよう求めました。
これに関して、厚労省としては、PCR検査は医師が感染疑いとした人に検査ができるような体制を整えていると述べ、クラスターとなりやすい場所とリスクを考えて、特に医療機関や高齢者施設では第一優先に検査が行えるよう、自治体に周知しているとして、感染拡大防止の観点から必要な方が検査を受けられるような体制を考えていると回答がありました。また、予算に関しても、PCR検査機器の予算確保を補正予算で行っているということでした。
医学連としては、医療従事者に準じる形で病院実習を行っている医学生・医療系学生に対しても検査体制を拡充するよう改めて要請しました。
二、地域枠制度について
【法的拘束力】
地域枠制度の法的拘束力という観点について、医学連からは「道義的責任」を用いて従事義務を強制することは憲法22条に照らして拘束力を持つものとは考えられないと述べ、各地域から寄せられているパワハラ事例についての厚労省の見解を求めました。
これについて、厚労省は、地域枠を選んだ学生が良かったと思える制度にしていくことは重要だと捉えているという認識を示し、学生をサポートするためにキャリア形成プログラムを作っているとしました。加えて、臨床だけでなく、研究や留学の資金サポートや、マッチング、専門医研修などでも優先的に病院を選ぶことができるようにしていきたいと回答しました。
【従事義務と学生への支援策】
近年では、地域枠制度の強制力強化が問題になっており、従事義務や入試形式の統一化、奨学金返還に伴う違約金の増額などが進められています。この点について、医学連からは、強制力を強めるよりも学生への支援策を充実化させていくこと、奨学金を伴わない学生に対しても地域医療従事を後押しする支援を行っていくことを求めました。また、入学時に6年後のキャリアプランまで判断を求める現在のしくみについて、妥当と考えるのかという認識を聞きました。
これについて、厚労省からは、これまでの各都道府県ごとに様々な地域枠制度があって複雑になっていたために、わかりやすくするために制度を統一していっているという回答がありました。また、一部の大学や自治体では、地域枠制度への理解が浅い所があるという認識を示し、従事義務期間中でも専門研修やライフイベントに対応できるように制度をつくっているというころだとお答えいただきました。
一方で、地域自治体からは、医療提供体制を確保するために従事要件を果たし、地域に医師として貢献してほしいという思いがあるとし、奨学金を返還すれば離脱できるかどうかは、県や大学との個別の契約であり、二者間で話していくことだと回答しました。
入学時の契約については、卒業までに本人の考えが変わることや、求められる診療科など医療界の情勢も変わるということを認め、入学時に固定しすぎることは学生にとっても自治体にとっても難しいのではないかと、今後議論していく考えを示しました。また、現在の9年間という従事義務年限については、明確な根拠はないが、専門医を取得した後の6年目~9年目に地域で活躍してほしいという考え方だと説明しました。
【医師の絶対数不足】
医学連からは、医師の絶対数に関しては不足しているという認識を伝え、多様なニーズに応える地域枠を目指す上でも、医学部定員を減らさないことや地域枠以外の医師も地域医療に関わるプログラムを作ることなどを求めました。また、医師数を算定するうえで、医師の労働環境の是正も含めて見直すことについて厚労省の見解を求めました。
これに対して、厚労省からは、人口が減っていく中で医師数を増やしていくと質の低下や医師の収入減少などの弊害が生じるという認識を示し、マクロの医師数は減少させていく方向だと回答しました。また、地域枠の若手医師だけに地域偏在の解決の負担を課すのは良くないと述べ、臨床研修や専門研修での偏在是正、専門医を取った後の医師にも地域に行ってもらうなど、対策を行っていくとお答えいただきました。
医師の働き方については、当直などの特殊性や裁量性があると述べ、現状では上限960時間や1860時間の基準を設けているとの説明がありました。そのうえで、将来的にはこの基準も一般労働者に近づけていく、少なくとも960時間までにはしていくと述べ、時短やタスクシフトなどを病院にお願いしていると回答しました。
【キャリア支援の柔軟な対応】
地域枠制度における従事義務について、様々なライフイベントなどとの折り合いをつけられるかといった不安が寄せられることから、医学連からは結婚、出産・育児、介護などのライフイベント、大学院進学や海外留学などの機会に対応するための、義務年限の中断・分割など柔軟な運用を求めました。
これについて、厚労省からは、地域枠の医師向けに専門研修でもカリキュラム制を導入するなどの設計をしているとし、指導医を地域に送るためのインセンティブを考えていくなど、不安の払しょくに努めていくとの回答がありました。
【従事義務要件の変更】
地域枠で入学した後に、従事義務要件が変更されるなどの事例が昨年度より報告されており、医学連としてはこのような不適切な契約変更や学生への圧力に速やかに対応し、学生への丁寧な説明を行うように求めました。
これについて、厚労省からは、入学時に結んだ契約から変わる場合には、当然、都道府県や大学が説明して本人の同意を得る必要があると回答しました。
【学生や中高生に対する説明】
昨年度に医学連が行ったアンケートでは、都道府県・大学・高校からの地域枠制度に対する説明が不十分であることが明らかになり、受験生に制度およびその運営に関して十分な説明を行うように求めました。
これについて、厚労省からは、都道府県職員への周知や学生への周知は、現状では不十分な点があるという認識を示し、取り組むべき課題だというお答えがありました。また、高校生などに対しては、文科省とも協力しながら周知していくことを今後検討していきたいとしました。
【マッチングに関わる運用】
マッチング制度において、地域枠学生の情報が提供されていることに関して、医学連からは、同意なく利用されないよう地域枠学生への十分な説明と、離脱した学生に対して不適切に運用されないように改定していくこと求めました。
これについて、厚労省からは、現在は採用する病院側が従事要件を都道府県との合意なく破っている人を採用しないように、地域枠学生に便宜的にフラグを付けているとし、不利益に扱うという意図はないと回答しました。また、地域枠医師が優先的に病院にマッチングできるような仕組みを作っているところだと述べました。
【学生の声を取り入れること】
医学連からは、地域枠制度に学生の意見を反映させ、魅力的な制度にしていくことと同時に、福祉制度や労働環境の充実化を図っていくことを求めました。
これについて、厚労省からは、医師需給分科会や臨床研修部会などでは若手の意見を聞こうという意見が出ており、若手医師に実際に来てもらったり聞き取りを行って、議論の参考にしていくことが重要だというお答えがありました。同時に、医学生の意見についても同様に、議論の上での重要な論点になると回答しました。
【すべての大学で適切な支援を行うこと】
地域枠学生の中には、各都道府県や地域医療支援センターから十分にキャリア支援や説明が行われていないという事例があります。そうした状況を是正し、全ての地域枠学生に対して適切な支援が行われるよう、各都道府県・支援センター・大学などと連携をとって進めていくことを求めました。
これについて、厚労省からは、各都道府県に対してどのような地域枠制度を行っているかという調査を定期的にしていると述べ、どのような9年間の支援を行っているか、適切な形で支援されているかといった点は今後もきちんと確認していきたいと回答しました。また、各地域のプログラム策定についても調査しており、どのような形なら学生が参加しやすいかということを、今後も医師需給分科会で検討していきたいと述べました。