2022年2月25日に全日本医学生自治会連合(医学連)は全国医師ユニオンの代表の植山直人先生や日本労働弁護団の市橋耕太先生ともに厚生労働省(厚労省)と地域枠に関しての懇談を行いました。懇談の進行に沿って、報告します。
1. 要請書等(令和3年11月19日交付。一部改訂あり)の趣旨説明
「医学生の地域枠制度の問題に関する要請」では、地域枠制度は相対的に医師が不足し地域医療の継続が困難な地域の医師不足を解消するために始まった制度であるが、本来は絶対的医師不足の解消を優先すべきである、と述べられています。現行の地域枠制度は地域枠学生の不利益や人権侵害を引き起こしているなど、地域枠制度の問題点を挙げ、医師・医学生の人権を守れるような制度とすることや養成する医師の増員などを厚労省に求める要請文となっています。
各団体の発表した意見書
・医学連:医学部地域枠における課題を提起し、より柔軟な制度設計を求める意見書
・日本労働弁護団:医師の「地域枠」制度の改善を求める意見書
・全国医師ユニオン:地域枠制度問題に関する要請文
2. 上記に関する厚労省のご見解の説明及び質疑
〈厚労省の見解〉
・地域枠制度の運営をしていく中でも、「義務が強すぎる」「柔軟にしすぎると離脱が増える」「地域枠以外で入学できた学生の機会を奪っている」など、様々な意見が寄せられ、バランスが難しい。
・ポイントの1つ目として、契約形態が多岐にわたっているので、地域枠が何を指すかが曖昧になっていることがある。そこで昨年4月に、地元出身者枠・大学独自の枠・地域枠の3つに沿って運用してもらうよう都道府県に通達した。
・もう一つのポイントは、地域枠の学生に、従事要件や離脱要件を事前に説明をして同意を得た上で、入学してもらうことである。これまでは説明を都道府県に任せてきたが、一定の枠組みをつくった。
・「不同意離脱の場合、専門研修を認めない」という規定が議論の的になっているが、背景として、都道府県から、同意のない離脱者は研修させないでほしいという意見があった。
・離脱に関しては、都道府県ごとに契約は多岐にわたるため、画一的な見解を示すのは難しい。
・都道府県の役割、専門医機構の判断は整理が必要であろうと考えている。今後の議論を見守ってほしい。
〈質疑応答〉
・離脱はどの程度許容されるのか?
→(厚労省)結婚や介護、キャリアなど様々な要因があり、離脱をゼロにするのは難しいが、一般の入試とは別枠なので入学時優先されており、定着してもらう必要がある。本人のキャリアと両立するにはどうしたらいいか、本人の希望に沿う形で考えるためのキャリア形成プログラムを進めていきたい。9年間通して従事するのではなく、一時中断するというケースもあって良いと思う。
・世界各国で医療過疎地域の問題はあるようだが、日本の地域枠制度は強制力が高い。オーストラリアの地域枠制度は、義務期間が3年で定着率も高い。また、若手よりも一定期間たった医師の方が地方に行きやすいのではないか。
→(厚労省)欧米と日本で医療制度かなりちがうので比較できるのか疑問があるが、ミドルキャリアも入れることは検討の余地があると思う。現在、偏在対策は若い医師が中心となっている。それ以降の医師については、ライフイベントで動けない、医師の数としても多いなどの原因で対応が難しいものの、指導医クラス以上の医師に来てほしいというニーズもあると思う。
・山梨県の違約金に関して懸念や、さすがにやりすぎではないかという議論はないのか?
→(厚労省)報道を見て驚いたというのが正直なところ。違約金は地域枠とは独立したキャリア形成プログラムでの設定にはなるが、プログラム運用において違約金までは想定していなかった。言及は難しいが、地域枠以外でプログラムを希望する学生や自治医の出身者などを対象にするなど、契約においてそれぞれ決められることかと思う。
→(質問者)山梨県でもキャリア形成プログラムを結ばないことは考えられておらず、事実上地域枠と一体であり、別物とは言い難い。厚労省として問題意識を持っているなら始動して働きかけてもらえたらと思う。
3. 日本専門医機構の不同意離脱への対応についての質問
①都道府県の同意/不同意が専門医資格の認定/不認定を決することになる(医師の権利を制約する)ため、かかる制度には法律上の根拠が必要ですが、当該法律上の根拠(元となる法律及びその委任を受けた省令等)をご説明ください。その際、都道府県の不同意が、医師の職業選択の自由及び居住移転の自由(憲法22条1項)を制約するものであることにご留意の上、ご説明ください。
②都道府県が不同意とすることは処分性を有する(行政手続法2条4号の不利益処分に該当する)と考えられ、その場合には行政手続法が求める基準を定めたり、同法の手続を遵守する必要があります。また、仮に不利益処分には該当しないとしても、いずれにしても同意/不同意の基準や、都道府県の具体的な手続が定められておく必要があると思われますが、これらは用意されているのでしょうか。
・①②について、既に制度の運用が始まってきていて、問題が出てきている。
→(厚労省)専門医不認定となることは、不利益処分に該当する可能性もある。専門医は医師として必須ではないので、制約にはあたらないという意見もあるが、9割ほどの医師が専門医資格を取る。微妙なところなので、改めてきちんと整理するべきだと思う。一番重要なのは、あらかじめ離脱条件に同意したうえで契約してもらうことで、処分性があるとはいえ、納得したうえで契約してもらうことが前提である。
→(質問者)これから入学する人には説明すると思うが、今の医師に対しては?
→(厚労省)改めて整理する中でこのような話が出てくる。後出しじゃんけんだという意見ももっともである
3 同意/不同意の基準や手続きに関して
上記2でお尋ねした同意/不同意の基準にもよりますが、例えば、地域枠で医学部に入学した医師が、学生時に貸与された奨学金を利息を含めて全額返済した上で都道府県に対して離脱を求めた場合(日本専門医機構との関係で都道府県に対して離脱に同意することを求めた場合)、当該都道府県は離脱に同意しなければならないといえるでしょうか。
そのほか、(少なくとも日本専門医機構との関係で)都道府県が同意/不同意を決定する際の考慮要素となる事情や決定基準があれば具体的にご教示ください。
→(厚労省)従事要件と離脱要件は、奨学金とは別に契約する形で、別枠で入試をしているのがポイントである。一般枠とは別なので、特別に入学したという使命で入ってきている。専門医認定については、離脱要件の設定の仕方で別の問題である。
→(質問者)一般的な契約の在り方としては、離脱するなら奨学金返還というイメージだったが、お金の問題でないのなら、単純な身体拘束ではないか。少なくとも今の学生や医師は奨学金返還以外で離脱できない理由がつけ加わること予見していなかっただろう。具体的な相談が寄せられている。
→(厚労省)都道府県との調整が上手くいかないところがあると聞いている。医師の年収を考えると、奨学金を返還すれば離脱してよいと捉えられても困る。不利益処分になってしまう場合も仕方ない。限定的であるべきとは思うが、どの範囲で行うかということを丁寧に議論する。
・雇用契約は5年までという労働基準法もあり、義務年限について問題になると思うが、どのような考えをお持ちか。
→(厚労省)これがそもそも労働契約なのかという根本の問題がある。年数に関しては自治医や産業医などを踏襲する形で当初から9年となっていた。短縮すべきという議論もあるが、地元出身者枠など柔軟に扱いやすいところで対応できるのではないか。
→(質問者)長期間・卒後すぐではなく、オーストラリアのような形にすることが人権侵害にならないやり方なのでは。
→(厚労省)地域枠の中にもグラデーションがある。
→(質問者)病院と医師との契約は労働契約である。労働契約でないのは県との従事要件なのではないか。しかし地域枠という制度を見たときに、県、病院を一体として使用者的な立場と見ざるを得ない。
→(厚労省)勤務する病院を細かく指定している場合はそうなる。
・県や病院に人事権が握られているので、ハラスメントの問題もある。我々も地域医療のため、偏在解消のための制度が必要ということは一致している。いきなり地域枠をなくしてしまえとは言わないが、当事者の声を聞いてほしい。
→(厚労省)ハラスメントの問題や、地域枠と一般枠での教育の混乱、診療科の指定がある場合は本人の学習行動や実習での指導医との関係性で困難が生じるケースもある。将来を見据えることが大事である一方で、学生にそこまで想像力が及ぶかというとわからない。ハラスメントはあってはならない。個人の人生選択と、地域枠の両立が良いバランスでできるように政策を磨いていきたい。
懇談の様子